石の謎をつきとめ、ついに「エデン」へと向かっていくフェナたち。「佳局の幕開け」を経て、たどり着いた先に待つものとは──。最終回も見えてきた今、フェナ・ハウトマン役の瀬戸麻沙美さんにインタビュー。改めてフェナというキャラクターの魅力、アフレコ現場でのやりとり、さらには終盤に向けての見どころを伺いました。
表情の描き込みにスタッフの愛を感じた
──完成した映像をご覧になられた感想から、まずはお聞かせください。
瀬戸:第1話を観た衝撃はすごかったです。美術のうつくしさは中澤さん(※監督の中澤一登さん)からも聞いていました。制作中に素晴らしい画ができたときには先行して見せてくださったり、海外での配信の反応を私や鈴木くん(※雪丸役の鈴木崚汰さん)に教えてくれたりしていたので、「早く国内でも見たい!」って期待値はどんどん上がっていました。
実際に完成したものを見たら、聞き及んでいたものを超えるすばらしさでした。まずは何より映像美。美術のうつくしさと、動画の動きは驚きました。『海賊王女』は声の演技が作画よりも先に行われたのもあって、私たちのお芝居にキャラクターの表情や口をとてつもなく合わせてくれたのであろうことが伝わってきて。
まるでモーションキャプチャーのように、目や表情といった話すことにまつわる全てが連動しているのを観たとき、作品に携わった身としては、キャラクターがスタッフさんにも制作陣にも愛されて動いているのだと感じて、嬉しくなりました。
──本作はストーリーも多くの要素を掛け合わせるなど、世界観が独特です。それを一挙に感じさせた第1話だった印象を受けました。
瀬戸:台本をいただいたときから感じてはいましたけれど、第1話はその軽快さに引き込まれましたね。物語のスタートが詰め込まれた回で、フェナが置かれた環境、ここからどうしていきたいのか、そして島を脱出するまでを明かしながら、テンポ良く物語が進んでいく。それなのに見ている人に、物語を急いているように感じさせない表現がされていて。
実際にテンポは速いですし、助けに来てくれたサルマンやオットーの「人と成り」も描いているのに、ストーリーに飲み込まれていって、気づけばあっという間にシャングリラを旅立ってしまう。娼館のある街並みなど、あれほどこだわりのある世界設定を最初に映していたのに、すぐ脱出しちゃうんだ!と(笑)。
話数が進んでいくと、それだけ今後の舞台がたくさん用意されていたのもわかっていくので安心はしますが、特に第1話はその「あっさり感」が、むしろ潔くて気持ちよかったですね。第2話につながるワクワク感のある表現もすばらしく、ひとりの視聴者として圧倒されつつ、楽しんで観ていました。
コロナ禍で悩んだ、かけ合いの「間」
──アフレコをしていたのは、どれくらいの時期でしたか。
瀬戸:1年半ほど前に最終回を録り終えたくらいです。キャストみんなでブースに入って演技ができていたのは『海賊王女』が最後だったように思います。今はコロナの影響で、他作品でもブース内に入れる人数制限がありますから。
──やはり、ブース内にキャストが集えることと、マイク本数の制限があることでは、演技の感覚も大きく変わりますか。
瀬戸:変わりますね。アニメーションには「別録り」という手法もありますから、収録することは可能です。でも、そうなるとセリフのかけ合いの「間」が演者に依らなくなり、制作されるディレクターさんや監督のさじ加減で会話のテンポが決まっていきます。
制作にあたるみなさんを信頼していますし、コロナ禍の前から採用している現場もありました。だからこそアニメ制作は、この状況でもストップせずに続けてこられたと思うので、すばらしいことではあります。
ただ、かけ合う相手のお芝居を聞けないことに、この1年半は誰も難しさを感じて、ストレスを抱えながら向き合ってきたはずです。『海賊王女』は初期の段階でキャストが集って収録できていたので、まだイメージがうまく作れました。とはいえ、実際にかけ合って隣でしゃべるのか、イメージの中で距離感を掴むのかは、やはり出てくる声に表れるものです。
『海賊王女』ほど他者との関わりが大事になってくる作品だと、よりみんなで収録したかった気持ちは大きかったです。特に、一緒に海賊船に乗っているメンバーのわちゃわちゃしたかけ合いを聞けず、私もそこに混ざれなかったのは、寂しさがありましたね。
ただ、作品後半はフェナと雪丸が揃うシーンが多く、そこでは私と鈴木くんとでかけ合って収録できたので、むしろ二人で静かに集中できたのではないかな、と思います。
フェナは「おしゃべりな人見知り」?
──フェナというキャラクターについても聞かせてください。瀬戸さんから見て、フェナはどういった人物や性格に映りましたか。演じていく上でチャレンジしたこともあれば教えてください。
瀬戸:フェナはすごく行動力があるし、決断力もあります。父と別れ、家族と別れ、しかも娼婦の島というサバイバルな環境で育ってきたにもかかわらず、心が腐っていないんですよね。人は環境によって出来上がると思うのに、「やりたいこと」や前向きさを失わなかったのは、周りの人たちからの愛や雪丸との思い出が、フェナの性根の部分に強く影響していたんだろうな、と感じました。
それでいて、度胸もありますよね。たとえば、「初夜権」を獲得されて塔を登っていくシーン。自分の計画が完璧だと思いこんでいるあたりは世間知らずな感じもあるのですが、それがうまくいかないとわかった途端に「お腹が痛い…!」って小芝居を打ったりもできる。ふつうは怖くなったら体が固まったり、相手の言いなりになったりしそうなところなのに。
あそこで私は度肝を抜かれたんです。これまでにも真っすぐで無鉄砲な役どころを演じることはありましたから、自分の引き出しから生かせる部分もあるとは思ったのですが、それしてもフェナの度胸の据わり方はすごい。
あと、フェナは結構なおしゃべりなんですけど……「おしゃべりな人見知り」というところがあって(笑)。
──言い得て妙だと思います!
瀬戸:周りに気遣いをするタイプだから、余計によく話してしまうんでしょうね。雪丸と再会したときにも「まともな男に会ったことがない」とフェナは言うのですが、それも相手に間違いなく自分のことを理解してほしい、相手に間違って受け取ってほしくないという気持ちが強いから、ああいうふうにたくさんしゃべるのだと思うんです。
もちろん、男性に慣れてないというピュアさもあるので、そこから宿るどこか無邪気で、世間を知らないからこそのかわいらしさは乗せたいと考えていました。でも、それが「あざとさ」のようなものには感じさせないことには気を払ってきました。
フェナが持つかわいらしさは「計算的なあざとさ」ではなく、「天然的なあざとさ」なんですよね。聞こえていないふりをしたり、雪丸をからかってみたりという茶目っ気はあるけれど、男女問わず他者から嫌われるタイプではないでしょうからね。
ヘレナは本当にアベルを愛していたのか問題
──話数が進んでいくにつれてフェナを取り巻く人々も登場してきました。後半にはアベルというキーキャラクターもいます。アベルは、瀬戸さんにはどのように映り、またフェナとしてどのように接しようと考えましたか。
瀬戸:フェナにとっては、「会えなかった母親を知っているこの人は何者なんだろう」という疑いと、「あわよくば母親のことも聞いてみたい」という好奇心を同時に抱く人物なんですよね。誘拐された後もアベルは優しく、特別扱いしてくれる。でも、その向けられている愛情みたいなものへの歪みから「私を通して何か別のものを見ている」と気づきます。
そういった疑心はありつつも、フェナらしく抑えきれない好奇心でアベルに向かっていく。目をそらさずに、アベルと対峙していく姿を表現したいと思いました。
私自身も、もちろん演じる話数の台本を見ることはできますが、『海賊王女』においては先々のシナリオを読まずに、台本をいただく度に知っていったことも多いです。先々の展開を楽しみにしつつ、毎話向き合っていけていた、という思い出はあります。
──フェナと一緒になって、謎が明かされるような感覚を持っていけたという。
瀬戸:そういう意味では、第11話は一度読んだだけでは難しくて、謎も残っています。一番に私の中に残っている謎は、「ヘレナは本当にアベルを愛していたのか」です。私はヘレナ役の坂本真綾さんとは一緒に収録できなかったので、どういったディレクションを経て、あの悟ったようなお芝居になったのかがわからなくて。
なぜ、アベルに対して「愛していたのはあなただけ」と伝えたのか。でも、炎で燃やされるときの最期に相手の目を見るなんて、本当に愛していたらやらないと思うんです。
──絶対に忘れられなくなりますものね。
瀬戸:すごく酷なことをするなぁ、って……これ、中澤さんに真意を聞きたいところです!
──ちゃんと書いておきます(笑)。
瀬戸:収録中から私や鈴木くん、中澤さんとで休憩中に話すことはあったのですが、このご時世で打ち上げ的なものもまだできていないんです。放送が終わり、みんなの気持ちが熱いときに、また集まって話したいです。それこそオーディオコメンタリーなんて出せたらいいですね。中澤さんは「僕は前に出る人ではないから」なんて遠慮なさりそうですけど、でも、ぜひお話ししたいです。
明かされる「終わり」を見守っていただけたら
──このインタビューが公開される頃は、物語もいよいよ終盤です。瀬戸さんの言葉で、ぜひ見どころを教えていただけますか。
瀬戸:ここまでも大冒険が繰り広げられて、いろんな島での出来事だったり、人との出会いだったりと、たくさんのことが起きてきました。11話、12話にかけて、アベルの目的や行く末、フェナに与えられた使命が、クライマックスに向けて描かれていきます。
ご覧になる方にとって、それがハッピーエンドになるのか、予想外なのか、あるいは予想通りなのか……どういった結末と感じるのかはそれぞれですが、良い意味で期待とは違う着地で、驚かせてくれるエンディングだと感じます。
定められた使命を探し、それをずっと守ってきた雪丸の気持ちにも、一つの落としどころが描かれていきます。最後まで見守っていただけたらと思います。
(取材・文 長谷川賢人)